学部学科・大学院

1ホルモンや栄養素による遺伝子の発現制御機構

2発がんによる遺伝子の発現制御機構

私の研究室では、以下の2つのテーマについて研究を行っています。

  1. ホルモンや栄養素による遺伝子の発現制御機構
    ヒトを含む動物は、生きていく上で外部からエネルギー源である食物(栄養素)を摂取しなければなりません。栄養素は、体内に取り込まれた後、酵素反応により様々な物質へと代謝されて体構成成分やエネルギーになります。しかし、ヒトは24時間摂食し続けているわけではないため、食事の前後で体内の代謝は変化するようになっています。たとえば、食後には体内に入ってきた過剰のエネルギー源を貯蔵する方向に反応が進みますが、絶食が続くときには貯蔵した物質を分解する方向に反応が進みます。この代謝方向の変化に関わるのが内分泌器官から分泌されるホルモンや栄養素です。
    私たちは、インスリンという血液中のブドウ糖濃度(血糖値といいます)を低下させるホルモンやブドウ糖により、食後の肝臓でSHARPファミリー遺伝子のスイッチがオンになることを見つけました。また、SHARPファミリーが血糖値を上昇させる酵素の遺伝子のスイッチをオフにすることも見つけました。ですので、SHARPファミリーがインスリンによる血糖値低下にかかわる因子であると考えて研究を行っています。また、インスリン以外の物質でSHARPファミリー遺伝子のスイッチをオンにできれば、インスリンがうまく働かないためになる糖尿病という病気の予防や治療につながると考えて研究しています。
  2. 発がんによる遺伝子の発現制御機構
    がん細胞は、ブドウ糖をたくさん消費してエネルギーを得て、分裂を繰り返して細胞数を増やしています(増殖といいます)。私たちは、がん細胞でだけ見つかるブドウ糖を代謝する酵素の遺伝子を複数比較して共通のスイッチを見つけ、そのスイッチをオフにする可能性があるものとして、ZHX1,ZHX2およびZHX3の3種類のタンパク質を見つけました。その後、ZHX1はおもに細胞増殖(あるいは発がん)のアクセルとして、ZHX2やZHX3はブレーキとして働くことを見つけています。ですので、がん細胞にZHX2やZHX3を作らせれば、がん細胞の増殖をおさえる(がんを治す)ことができるのではないかと期待して研究しています。

健康長寿のためのアンチエイジンング(抗加齢)医学

急速に進歩する生命科学を背景に、古代からの夢である若返りを追求しようと、1992年米国、2003年日本でアンチエイジング(抗加齢)医学会が設立されています。現状では、理想的な予防医学として健康長寿を目指すという段階ですが、真の抗加齢薬の開発や再生医療などの最先端医療への発展も期待されています。

私は、30年以上にわたり糖尿病・内分泌を中心とした内科臨床に従事しながら、腎臓の尿細管を用いた分子生物学的研究やがんの遺伝子治療を目指した基礎研究を行っていました。最近は、日本抗加齢医学会に所属しながら活動をしています。健康長寿やアンチエイジンングに対して、日常生活において基本的で重要なことは、食事・運動・睡眠・ストレスの自己管理となります。現在、これまでの成果や経験を活かし、生命の基本である栄養を見直し、健康長寿のためのアンチエイジング医学を研究テーマとして掲げています。

最近の具体的な研究成果およびテーマとして、①地域の百寿者研究 ②がんと食習慣に関する研究 ③健康長寿食またはアンチエイジングメニューに関する研究 があります。世界の基礎研究から臨床研究までを探索し、トランスレーショナル医療や先制医療につながる成果を、国内外に発信していきたいと考えています。
  1. Aoki Y. Higher serum levels of indirect bilirubin and polyunsaturated fatty acids in Japanese centenarians with better performance and nutrition status. Acta Sci Nutr Health 4 (2): 1-4, 2020.
  2. Tokutake N, Ushiyama R, Matsubayashi K, Aoki Y. Age-specific incidence rates of breast cancer among Japanese women increasing in a conspicuous bimodal distribution. Proc Singapore Healthcare 29, 2020 (online ahead of print).
  3. Aoki Y. The Japanese diet should be going to be an optimal diet for people’s healthy longevity. Acta Sci Nutr Health (Special Issue 1): 13-16, 2019.

このような分野に興味のある方、実践に近い研究に好奇心をもって一緒に取り組んでみませんか。  

1微生物の有効活用

2食と寿命

私の研究室では、漬物を中心に様々な乳酸菌を分離しています(木藤と小林、2018)。長野県の代表的な漬物である野沢菜からは、Lactobacillus sakeiという乳酸菌が高頻度で分離されます。さらに、信州伝統野菜の源助かぶ菜の漬物から分離したL. sakeiを使って、豆乳ヨーグルトをつくり、シトルリンやオルニチンなどの有用アミノ酸が増えることを明らかにしました(木藤、小沢、北村、石原、2019)。現在、牛乳中でL. sakeiを増殖させるために必要な成分を探しているところです。
研究室のもう一つの研究テーマは、「食べ物と寿命の関係」を明らかにすることです。モデル動物であるキイロショウジョウバエを使い、食べ物中の不飽和脂肪酸がショウジョウバエの寿命を短くすることを明らかにしました。その後、この短くなった寿命をもとに戻す成分を探索し、候補となる成分を見つけたので確認を進めているところです。
上記以外にも、昆虫病原糸状菌(Beauveria)が抗コウジカビ物質を産生することを発見しました。活性物質の特徴を明らかにしているところです。
文献
  • 木藤伸夫, 小林愛実,「信州地域の家庭で漬けられた漬物からの乳酸菌の分離と同定」、『教育総合研究』2、pp. 117-123、2018
  • 木藤伸夫、小沢瑞希、北村希碩、石原三妃、「「信州地域の伝統野菜」源助蕪菜の漬物からの乳酸菌分離と豆乳ヨーグルトの作製」、『地域総合研究』21、pp. 55-66、2019

インスリン様活性を有する食品成分のスクリーニングと作用機構の解析

糖尿病患者は、厚生労働省が調査をするたびに増え続けています。現在、我が国では、糖尿病患者は 890 万人、その予備軍は 1320 万人、合わせて2,210 万人と推定されました(「2012 年 国民健康・栄養調査結果」の推計より)。この数字は人口の約17%を示し、国民の約6人に1人の割合で現在または将来糖尿病に罹るということになり、今や、糖尿病は国民病とも言えます。我が国における糖尿病の 95 %以上は 2 型糖尿病で、これは高エネルギー食の摂食過多、運動不足などの生活習慣の悪化の結果肥満となり、その後インスリン抵抗性(インスリンが効きづらい状態)が引き起こされ、糖尿病が惹起すると考えられます。

食品由来の低分子化合物がインスリンに似た作用を引き起こすことを科学的に証明すれば、それらを食品として恒常的に摂取することにより、糖尿病の予防や治療に有用であると考えられます。そこで私どもは、インスリンによって発現誘導される転写因子である、ラット enhancer of split- and hairy-related protein ( SHARP ) ファミリー遺伝子の発現誘導を指標として血糖低下作用を有することが知られている食品由来成分のスクリーニングを行ってきました。その結果、大豆イソフラボンのゲニステインや緑茶カテキンの(-)-epigallocatechin-3-gallete( EGCG )を、抗糖尿病効果を期待できる生理活性物質として同定し、その分子作用機序を明らかにしました。

最近、ワサビの辛味成分であるイソチオシアネートが SHARP ファミリー遺伝子発現とは独立して、糖新生系酵素である phosphoenolpyruvate carboxykinase( PEPCK ) 遺伝子の発現誘導を抑制することを確認しました。そこで現在は、イソチオシアネートによる PEPCK 遺伝子の発現抑制メカニズムを明らかにする研究を行っています。今後は、SHARP ファミリー遺伝子の発現誘導やPEPCK 遺伝子の発現抑制を指標に食品成分から広くスクリーニングを行い、抗糖尿病効果を有する生理活性物質を同定することを目的とします。

最近の研究テーマ

  • 運動量を計測するための活動量計およびアプリケーションの開発
    歩行を中心とする日常生活での運動量から、スポーツ活動のような激しい動きに対しても正確に運動量を計測できる活動量計と、計測した運動量を用いて効果的に「健康づくり」を支援するためのアプリケーションの開発を行っている。
  • 中高齢者を対象とした運動プログラムの提供
    主に、中高年者、虚弱者を対象に生活習慣病予防や体力の維持増加を目的に、インターバル速歩や筋力トレーニングを取り入れたプログラムの開発を行っている。また、日常の習慣的な運動が、身体に及ぼす影響及び運動の効果を予防医学的な視点から、科学的に検証している。
  • リゾート施設における健康づくりプログラムの開発及び効果検証
    リゾート施設における健康づくりプログラムを開発し、これまでに約3,000名が利用している。このプログラム実施が、人に何をもたらすのか?また、リゾート地の近隣の地域や行政に及ぼす影響も検討している。
  • 運動習慣を持たない中高齢者への健康づくりのための支援
    人は運動の大切さやその効果については十分把握しているものと思われる。しかし、日本人の運動習慣者の割合は決して高いものではなく、むしろ1日あたりの歩行数は年々減少している。歩行数減少は運動・身体活動の分野において最も懸念すべき問題であり、早急に重点的な対策を実施する必要がある。運動習慣が無い人へのアプローチを一体どうすれば良いのか?例えば、最近のパチンコ店、ゲームセンターを訪れる客層の多くは高齢者である。朝から晩までパチンコ店で遊技しても1日2,000~3,000円あれば十分足りるのである(1玉60銭、50銭コーナーの設置)。朝10時に来店し、遊技の合間には、仲間とともに休憩所でお茶を飲み、昼食も持参した弁当を仲間と会話をしながら食べるのである。自宅に一人で引きこもっているより遙かに良い。ただ、座りっぱなしで1日過ごしていたら生活習慣病予防にも体力維持にもならない。この人たちに、パチンコ店でなくトレーニングジムを勧めても決して行かないであろう。高齢者を対象とした活動量増加(歩数増加)は、介護予防のためのポピュレーションアプローチとして有効である。ならば、高齢者のコミュニティーの場所となっているパチンコ店を、そのままヘルスステーション化する計画を、パチンコ店と現在検討中である。
 

「実践栄養学」分野の研究

「私たちの健康は、私たちが食べるものと強く関連している」ということは、多くの人が認識しています。子どもたちは、大人たちから「そんな食べ方をしていると、病気になっちゃうよ!」といわれ、テレビを見れば、健康の維持増進や病気予防に効果があるという食品や栄養成分を取り上げた番組やコマーシャルが目に入ってきます。
私たちの研究室では、「人はどのように食べているのか」「どのようにしたら、食を中心としたより良い生活習慣を獲得し、維持できるのか」などについて考える「実践栄養学」分野の研究に取り組んでいます。

2013年2月に厚生労働省が2010年の都道府県別平均寿命を発表しましたが、長野県は男性80.88歳、女性87.18歳でともに全国1位でした。そこで、長野県民はどんな食べ方をしているのかということに注目が集まり、いろいろなメディアから問い合わせなどがあったり、講演依頼をいただいたりしました。しかし、長野県の長寿の要因については、研究が充分なされている状況とはいえません。「○○という成分と△△という病気とは関連がある」という研究は、細胞レベルでの実験や動物実験で確認されることも多いのですが、栄養教育を進めていくには、私たちはどのように食べればよいのかを考える必要があります。つまり、人を対象とした研究が必要ということになります。
例えば、高コレステロール血症(特に、高LDL-コレステロール血症)は心筋梗塞の危険因子ですが、食事からたくさんのコレステロールを摂ると高コレステロール血症になるのでしょうか。そのことを明らかにするためには、「摂取量の多い人では、摂取量が低い人に比べて、血清コレステロール値が高い」というような研究データが必要になります。この場合のこの食事中のコレステロールの量はどのように調べるのでしょう。そうです、食事調査によって調べるわけです。もし食事調査の精度が低く、得られたデータが間違っていたとしたら、「このように食べたほうが健康的である」という根拠が揺らいでしまうことになります。
私たちの健康と食べ方について、どのような食品をどのように調理して何をどれくらい摂ればいいのかを人を対象として検証するためには、そのベースとなる精度の高い食事調査が必要になるというわけです。しかし、人、特に日本人を対象とした食事調査は容易ではありません。私たちの研究室の研究テーマのひとつは、食事調査手法に関する研究です。実践栄養学や栄養疫学の発展には不可欠な研究分野です。

そして、もう一つの研究の柱は、できるだけ信頼性の高い食事調査を組み入れつつ、どのような働きかけを行えば、人々はより良い食習慣を獲得できるのだろうかという分野での研究です。より良い食習慣を考えるときには、もちろん健康的な食事が重要ですが、私たちの生活環境全体を見通した食べ方というものも必要になります。「栄養教育」だけではなく「食育」といった視点で考えることも不可欠だと考えています。私たちの周りの食環境は、人々が互いに関連し合う中でつくられているとすれば、人と人とのネットワークの広がりや強さも私たちの食べ方や健康づくりに関連してくるでしょう。

長野県の長寿の要因はそのあたりにあるのかもしれないと考えつつ、食生活にフォーカスした研究に取り組んでいます。

未病で治す一次予防

私どものゼミでは、病気を未然に防ぐ一次予防の研究に力を入れております。
病気になる前に治す未病の取り組みが、今後ますます重要になってくるからです。
本ゼミでは、ゼミ生みんなで知恵を出し合って、キラッと光る研究アイディアとそれを実現する研究プラン作成で研究をすすめてまいります。

  • 現在取り組んでいる研究
    1. 化繊過敏の方の睡眠の質を改善するナイトウエアの開発
    2. 住民調査データから健康状態を統計手法を用いて明らかにしよう
    3. 日常的に使われている抗菌剤・防腐剤は、アレルギーを悪化させるかもしれない
  • 過去に取り組んでいた研究(現在休止中)
    1. 機能性食品成分のアレルギー予防効果
    2. 住温泉泥療法により高齢者の関節痛を軽減することで寝たきり高齢者を減らそう
    3. エコツーリズムの参加前と後における心理的変化や腸内細菌叢の変化

  1. 化繊過敏の方の睡眠の質を改善するナイトウエアの開発
    日本人の3人に一人は睡眠で休養がとれていないと感じています。質の良い深い睡眠を確保するためには、ベッド内の温度が31-36℃、湿度50-60%が良いとされています。弘田ゼミではどのような素材の寝具が睡眠に適しているのか調べました。また、ポリエステル繊維に過敏で着用すると痒くなる方々に対して、かゆみの少ないポリエステル繊維のナイトウエアを着用してもらって、就寝中のかゆみを軽減することで睡眠の質が改善されるか、脳波計測や睡眠計などで試験を行っております。
  2. 住民調査データから健康状態を統計手法を用いて明らかにしよう
    神奈川県湯河原町の住民調査データを使って、学童期における野菜摂取頻度と食生活の関連として、ローレル指数が高い、外食中食が多い、孤食、好き嫌いが多いなどが、学童期における野菜摂取頻度が少ないことと関連があることを明らかにしました。また、高齢者の肥満と生活習慣との関連として、外食・中食の頻度が多い高齢者と肥満が多いこととの関連性も明らかにしました。
  3. 日常的に使われている抗菌剤・防腐剤は、アレルギーを悪化させるかもしれない
    抗菌剤のトリクロサンは、医薬部外品の薬用石鹸、うがい薬、食器用洗剤、マウスウオッシュ、歯磨き粉、手指の消毒剤、及び化粧品など、様々な衛生用品で使用されている一般的な家庭用抗菌剤です。しかしながら、動物での研究で、トリクロサン様々な毒性が疑われています。
    弘田ゼミでは、アレルギー性気管支喘息に罹りやすくした普通のマウスにトリクロサンを飲ませたところ、飲ませなかったマウスと比較して明らかに気管支喘息が悪化することを証明しました。一方、遺伝的にアレルゲンに反応しないマウスでは、この悪化は認められませんでした。このメカニズムの理由として、マウス糞便中の細菌叢の変化との関連を示唆する結果を得ました。
    動物実験の結果をそのまま人間に当てはめることはできませんが、アレルギーに罹りやすい人がトリクロサンを使い続けると、日常的に吸入しているダニやハウスダストなどアレルゲンにより、アレルギー症状がより悪化するだろうという可能性が示されました。
  4. 機能性食品成分のアレルギー予防効果(動物実験)
    ユズ果皮に多く含まれるリモネンには、抗炎症作用があり、アレルギー予防の可能性が示されました。高知県幻のお茶「碁石茶」やビワ種子茶、プロポリスのアレルギー予防の可能性が示されました。
  5. 温泉泥療法により高齢者の関節痛を軽減することで寝たきり高齢者を減らそう
    イタリア発祥の温泉泥の温熱療法により、軽度変形性膝関節症高齢者のヒザ関節の痛みが軽減され、CS-30 試験やTimed Up and Go 試験結果が改善した。(クロスオーバー型試験)
  6. エコツーリズムの参加前と後における心理的変化や腸内細菌叢の変化
    2泊3日の旅行期間中、薬膳料理、森林ウオーキング、ヨガ、温泉泥などを実施したところ、POMS全項目の改善、体の痛みの軽減、参加前と後での腸内細菌叢の変化が認められました。

生老病死を社会科学的な視点から考える

だれもが健康を願っていても、だれ一人として老病死を避けることはできません。そのとき、あなたはどのようにそれらに向き合い、あるいは、それらに直面した人びとをどのように援助できるでしょうか。
人間が「生きること」「老いること」「病むこと」「死ぬこと」すべてが研究対象です。

社会学の中でも、とくに健康と病、医療を対象とした社会学(医療社会学)が研究のベースとなります。社会学では常識にとらわれず、普通とは少し違う角度から、さまざまな事象(終末期ケア・介護と看取り・インフォーマルケア・慢性病の経験・宗教と世俗化等)を、主には社会調査法(調査票調査やインタビュー)を用いて分析します。また、生きることに不可欠で、ときに人生を彩る食やスポーツを社会文化的側面から捉える研究も行っています。

研究室に統一の研究テーマは設けておらず、各院生が追求したい課題について研究デザイン、研究方法を含めた指導を行います。

スポーツにおけるジェンダー平等の実現を目指して

誰もが性別に囚われず、自己の身体を解放し、能力を存分に発揮できるスポーツ界の実現を目指して、本研究室ではスポーツとジェンダー研究に取り組んでいます。具体的には、行政、政策、法律、政治などを扱う研究の手法を応用し、スポーツとジェンダーに関する政策や政策形成過程を分析の対象としています。

このような研究を行うきっかけとなったのは、「タイトルナイン」でした。タイトルナインは、学校における性差別撤廃を目指して、1972年に米国で誕生した法律です。同法が誕生するまでの米国ではスポーツは男性のものでしたが、同法が施行されると女性のスポーツ参加は劇的に上昇し、学校のスポーツシーンは一変したのです。このように米国スポーツに革命をもたらしたタイトルナイン政策はどのように実施されてきたのか。この疑問がスポーツとジェンダー研究を始めるきっかけとなりました。

一方、タイトルナイン政策の研究を進めていくなかで、男女のカテゴリーに収まらない人々のスポーツ参加の状況も気になってきました。競技スポーツは、男女別に競うことが当然とされていますから、スポーツ界では性別について、「男」でなければ「女」、「女」でなければ「男」と捉えられてしまいます。しかし、実社会には染色体が典型的な男女の型に収まらないインターセックスや心と身体の性が合わず、心の性に身体を合わせる性適合手術や治療を受けるトランスセクシャルやトランスジェンダーの人々がいます。このような「男女」に収まらない人々のスポーツ参加機会を確保するための政策も研究対象としています。

近年では、日本のスポーツ組織の意思決定を下すポジションに就く女性が一向に増えないことに問題意識が向いています。日本のスポーツ界において男女共同参画の理念の具現化を阻害する要因は何か、実はこのようなスポーツ界の永続を許すスポーツ政策自体がその要因となっているのではないかと感じています。

以上のようなスポーツとジェンダーに関する政策研究のほかに、スポーツ政策やスポーツと法に関わる研究課題に一緒に取り組んで下さる方をお待ちしております。

食感を中心としたおいしさの評価

食物の機能には栄養機能といわれる一次機能、嗜好機能といわれる二次機能、生体調節機能といわれる三次機能があります。二次機能について、食べ物のおいしさを成立させる要因には食べ物側の要因、食べる側の要因があり、食べ物側の要因には化学的要因と物理的要因があります。化学的要因である味、香りは物理的要因である温度、テクスチャーなどは相互に影響しあい、それがおいしく調理することの面白さにつながっていると考えています。意味のある調理操作、食材の利用がおいしい食物を作っています。

研究室では、物理的要因であるテクスチャーを中心に検討を行っています。
研究テーマとしては、一つには、ゼリー、パン、ケーキなどを調製する際に、副素材の影響が、食感を中心とした嗜好性に及ぼす影響を、客観的測定と主観的測定から検討しています。そこから派生した研究として、アレルギー対応食の調製についても試みているところです。 また、調理は五感を使って行うものでありますが、そのうち聴覚について着目し、調理中の音の変化について観察を行っています。調理中に発生する音と食感や水分量についてどのような関係があるかを調べています。

超高齢化が進む現代において、テクスチャーを中心とした”食べやすさ”というものがおいしさにも大きく影響していると考えられます。また昨今の市販食品は“新食感”が特徴となっているものも多く、食感の研究はこの先への広がりを持っています。

宇宙医学・生理学研究室

  • 宇宙を目指して、健康を学ぶ
    国際宇宙ステーション(ISS)の運用が進み、ヒトが宇宙に滞在する期間も飛躍的に延びました。今後は月面や火星を目指したミッションが計画されています。有人火星探査ミッションのように惑星間の移動になると、宇宙滞在時間が更に延び、物資の補給もできません。火星探査船内に搭載する物資は、予め緻密に決めておかなければいけないということになります。宇宙空間では重力がなく、体を支える必要がないため、筋や骨、循環機能が衰えます。まさに地上でベッドの上に寝たきりになった時と同じ変化が体に起こります。このような身体機能の低下を予防するため、現在はISS内で運動器具を使ってトレーニングを行っていますが、火星探査船に運動器具が搭載できるかは不明です。したがって、健康維持のための何か新しい考え方が必要と言うことになります。
  • 抗重力筋の謎に迫る
    重力下で姿勢を保持するために持続的に活動する筋(抗重力筋)は、高いエネルギー代謝能を保有しています。このような筋の特性は、重力下で発育し生活する過程で自然と獲得されますが、宇宙では特に抗重力筋のサイズや代謝能低下が起こります。しかし、抗重力筋のメカニズムはまだはっきり分かっておらず、重力の無い環境で抗重力筋を維持する方法の確立には未だ至っていません。抗重力筋とそれ以外の種類の筋(速筋)は、運動などに対する適応メカニズムが異なることも示唆されており、現在も詳細は不明なままです。このような謎の解明を目指して、私の研究室では「骨格筋がどのように抗重力筋の特性を獲得するのか」を明らかにするための研究に取り組んでいます。
  • 個人差が起こるメカニズムを応用する
    宇宙で骨格筋を衰えにくくするための考え方のひとつとして、運動効果の個人差に着目しています。同じ運動をしても、効果の表れやすい人とそうではない人がいるように、骨格筋の性質には個人差があります。当然、遺伝的な要因も大きいですが、過去の運動歴などが将来的な筋の”反応性”や”適応力”に影響するのではないかと考えています。例え遺伝子は同じでも、遺伝子を取り巻く環境(エピゲノム)が変化し、運動効果の個人差を生み出しているという仮説を立て、研究を進めています。つまり、宇宙へ行く前に「衰えにくい体質」を作ることができないだろうか、というのが目指すところです。「どんな運動」を「どれだけ」行えば健康を維持しやすいのかが分かれば、宇宙から得た新しい健康づくりの考え方として地上でも役立つと期待しています。

“おもしろい研究”をしよう

「おもしろい研究というのは、研究者自身がおもしろがっている研究である。(研究者自身がおもしろいと思っていないなら、その研究がおもしろいものになるはずがない。)そんなことは当たり前のはずなのだが、論文を読んでいて、『この著者は、こんなことが本当に“おもしろい”と思っているのかな』と言いたくなるものがあまりに多い」(佐伯,1986)

私の興味(おもしろいと思うこと)は、人の心、もっと言えば、人の生き方、人生そのものにあります。“現場”に出向き、面接調査や行動観察等を通してデータ収集を行い、「人の生の「あるがまま」に少しでも迫ることができるような研究を行いたいと考えています。
これまでに取り組んできた、もしくは現在も取り組んでいる具体的な研究テーマ(リサーチ・クエスチョン)として、
  • トップアスリートはどのようにうまくなった(熟達化した)のか?
  • アスリートのトレーニングの「質」を分けるものは?
  • トップアスリートの家族はどのような援助を行っているのか?
  • トップレベルのスポーツ指導者はどのような指導を行っているのか?
  • 運動を継続するためにはどうすれば良いのか?
  • 中途身体障害者のアスリートはどのように競技へと没頭していったのか?
  • スポーツ競技の審判員はどのようなストレスを抱えているのか?
などがあります。

人の心を対象としたおもしろい研究を一緒にやっていただける院生の方をお待ちしています!!
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