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"個体差の仕組み"を推論する新規AIモデルを河野研究室が開発
私たちの体は、同じ運動をしても「効果が出やすい人」と「出にくい人」がいたり、加齢の進み方や病気のなりやすさにも個体差があります。これらの違いは、遺伝だけでなく生活習慣や環境、年齢など多くの要因が複雑に組み合わさって生じると考えられています。しかし、その仕組みは人によって異なり、関わる要素が膨大であるため、一人ひとりの反応の違いを科学的に理解することは非常に難しい課題でした。
この課題に挑むため、河野研究室では独自の人工知能(AI)モデル「Bioreaction-Variation Network(BVN)」を開発し、その成果が国際科学誌 Scientific Reports に掲載されました。BVNは、数万件の学術論文に報告された実験データを学習したAIで、生理刺激(例:運動)とその結果として起こる変化(例:筋力が上がった、体重が減った)を入力すると、その間に隠れている分子レベルの仕組みをネットワークとして推論します。つまり、目に見えない体内の反応の"つながり"を、AIが地図のように描き出すことができます。
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BVN推論のイメージ
さらにBVNの最大の特徴は、一人分の測定データ(n=1)だけでも、その個体を特徴づける内部ネットワークを推論できる点です。これまでの研究では、相関解析などの統計学的手法を用いて個体特性を調べる場合、必ず多数の対象者データが必要で、ある特定の個体だけを評価することはできませんでした。しかしBVNは、一人分のデータからでもその人固有の反応の背景にある仕組みを推測できるため、「なぜ同じ運動でも効果が違うのか」「なぜ病気になりやすさが人によって異なるのか」といった個体差を、個体単位で理解する新たな道を拓きます。
このAIは、介入前に個体の特性を見極めたり、似た反応を示す人同士を分類したりすることにも利用でき、運動・栄養などの生活習慣の指導や支援をより個別化するための基盤技術として応用が期待できます。たとえば、ある人にとって効果が出やすい運動方法や、どのような生活習慣の変化が望ましい結果につながるかを、個人の特徴に基づいて考える手がかりになります。河野研究室では今後、ヒトを含むさまざまなタイプの測定データを活用し、実用化に向けモデルの予測精度をさらに高める研究を進めていく予定です。
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