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2024/12/27
  • 教育研究情報

骨格筋における運動エピジェネティクスの一端を解明 - 清水純也さんの研究がオープンアクセス誌に掲載されました

大学院健康科学研究科
スポーツ健康学科
教授 河野 史倫

健康科学研究科博士後期課程3年の清水純也さんが、運動によって骨格筋に生じるエピジェネティクスの仕組みの一端を解明し、その研究成果をオープンアクセス科学誌「Advanced Exercise and Health Science」に発表しました。

習慣的な運動は、筋量増加や代謝の向上だけでなく、遺伝子の読み取りやすさを調節する「エピジェネティクス」も引き起こすことが知られています。エピジェネティクスとは、遺伝子そのものを変えずに、化学修飾によって遺伝子の読み取りやすさを制御する仕組みです。これまでの研究で、運動が遺伝子読み取りを活性化する修飾(H3K4me3)と抑制する修飾(H3K27me3)の両方を増加させ、骨格筋の適応を促進することが分かっていました。しかし、運動がどのようにしてこれらの化学修飾を引き起こすのかは解明されていませんでした。

清水さんは、マウスを用いた実験でこの仕組みにアプローチしました。H3K27me3は通常、EZH2という酵素によって付加されますが、清水さんの研究では、もう1つの酵素であるEZH1をマウスの骨格筋で人工的に増加させたところ、運動時にH3K27me3とH3K4me3が顕著に増加することを発見しました。さらに、この変化により、運動トレーニングの効果も強化されることが分かりました。この結果から、運動時にはH3K27me3を付加する酵素がEZH2からEZH1へと切り替わる仕組みが働いている可能性が示唆されました。

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エピジェネティクスは、運動によって遺伝子を「読み取りやすい」構造に変える一方、加齢によって遺伝子を「読み取りにくい」構造に変える傾向があります。そのため、運動がエピジェネティクスを通じて骨格筋の適応力を維持していると考えられます。清水さんの研究は、その仕組みを実証する重要な成果です。また、このエピジェネティクスの変化は、筋肉が運動効果を記憶する「マッスルメモリー」とも密接に関係していることが分かっています。今後さらに研究を進め、マッスルメモリーの仕組みを詳しく解明することを目指しています。この成果は、運動の効果を科学的に理解するための新たな知見となります。

【図中の用語説明】

PRC2(ポリコーム抑制複合体2):遺伝子の凝集構造を形成する酵素複合体のひとつ。

ヘテロクロマチン:凝集した遺伝子構造。

バイバレント修飾:H3K27me3とH3K4me3の両修飾が付加された状態。

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