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健康科学研究科・増澤諒さんの学位論文が国際誌に発表されました

大学院健康科学研究科
スポーツ健康学科
教授 河野 史倫

健康科学研究科・増澤諒さん(2024年3月まで博士後期課程在籍・社会人大学院生)の博士学位論文が、日本生理学会の英文誌Journal of Physiological Sciencesに発表されました。

加齢によって骨格筋量やその機能は徐々に低下し、サルコペニアと呼ばれる病態に変容するリスクが高まります。サルコペニア罹患者は75歳以降に劇的に増加するものの、筋量・筋力の衰えは40歳代で既に起こり始めていると報告されています。このように骨格筋の加齢変化は、衰え始めてから病態変容するまでの未病期が長い特徴を有します。そこで増澤さんは、自身の理学療法士としてのバックグラウンドと臨床経験から、加齢中の骨格筋変化に着目し博士論文の研究を行いました。

エピジェネティクスは、DNAやヒストンへの化学修飾によって遺伝子構造を変化させ、遺伝子の読み取りやすさを制御する仕組みです。本研究では、加齢に伴い多くの臓器で増加することが知られているヒストンの一種H3.3が骨格筋内でどのような役割を果たすのかを追究し、以下のことを明らかにしました。

  1. マウスの骨格筋でも加齢によってH3.3が増加することがわかりました。このH3.3増加は、遺伝子を凝集させ読み取りにくくするヒストン修飾H3K27me3と有意な正の相関を示しました。
  2. 中年マウス(53週齢)では、運動を行っても若齢マウス(8週齢)のような遺伝子発現の増加応答が起こらないことがわかりました。
  3. 若齢マウスの骨格筋にH3.3を強制的に発現させた場合、運動協調機能の改善が見られました。この時、H3K27me3は減少し、逆に遺伝子構造を緩和し読み取りやすくするヒストン修飾H3K4me3が増加しました。

以上の結果から、加齢で増加するH3.3自体は骨格筋に対してポジティブな役割を果たすことが示唆されました。また、H3.3の機能はどのような化学修飾が付加されるのかによって大きく変わることも明らかとなりました。

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図の説明:本研究結果から想定される骨格筋の加齢変化とH3.3の関係。高齢マウスでは抑制型のH3K27me3修飾が、若齢マウスでは活性型のH3K4me3修飾が付加されやすい。

今回の研究は、加齢中の未病期において骨格筋の遺伝子は徐々に読み取りにくい形に変化していくことを明らかにしました。運動に対する反応が鈍くなることにも、このような現象が深く関わっていると考えられます。H3.3の機能にはまだ不明な点が多く残されていますが、H3K4me3のような活性型のヒストン修飾が減少することが筋老化を加速する要因ではないかと考えています。H3.3やH3K27me3、H3K4me3は運動によっても大きく変動することが我々の過去の研究からわかっています。運動が骨格筋の加齢変化を減速させることを、このようなエピジェネティクスの理論によって証明できることを目指し、次の研究にも着手しています。

論文掲載サイト


9月11日には、本学にて研究の集大成となる博士論文審査発表会が行われ、増澤さんが以下の研究テーマで発表を行いました。

論文タイトル
マウス前脛骨筋における加齢に伴うヒストンH3.3蓄積と転写抑制型クロマチンとの関連性 Age-related histone H3.3 accumulation associates with a repressive chromatin in mouse tibialis anterior muscle

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