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2018/04/04
  • COC事業

松本大学にとってのCOC事業

採択から5年、補助期間終了へ

2018年3月
松本大学 地域連携戦略会議議長 木村 晴壽

現代の大学とCOC

 文部科学省が平成25年度に開始した"地(知)の拠点整備事業"(COC事業)の目的は、文部科学省の説明では、以下のようなものだった。やや長くなるが、そのまま引用する。

 すなわち、「全学的に地域再生・活性化に取り組み、教育カリキュラム・教育組織の改革につなげるとともに、地域の課題(ニーズ)と大学の資源(シーズ)の効果的なマッチングによる地域の課題解決、更には自治体と大学が早い段階から協働して課題を共有しそれを踏まえた地域振興策の立案・実施まで視野に入れた取組を進める」と。

 簡単に言えば、地域課題の解決に貢献できるよう大学全体を地域志向に造り替え、自治体に協力せよ、ということになる。しかも、「学生が大学での学びを通して地域の課題等の認識を深め、解決に向けて主体的に行動できる学生を育成する」とし、育成すべき人材像をも示し、「地域のための大学」を目指すべきだと、明確に述べたのである。

 COC事業は競争的に資金を配分する方式なので、補助を受けたい大学はもちろん、自ら申請する必要があり、初年度の平成25年度には319の大学が申請書を提出した。つまり、大学改革に意欲ある大学の多くが手をあげたと言える。やや驚きだったのは、それら多くの大学が、全面的に地域志向の大学づくりに舵をきったことだった。前述のようにCOC事業は、地域社会に視点を据えた全学的改革がその眼目であり、採択の条件だからである。開学以来の理念として地域志向を掲げてきた本学のような大学はともかく、地域志向とは無縁の大学運営を長年にわって続けてきた各大学が、本当にそのような方向へ向かうことができるのか、また、それでよいのか、これが率直な感想だった。平成25年度に本学とともに採択されたのが52大学、平成26年度には237件の申請から25大学が採択された。つまり、地域志向を目指すと表明したのは実に556大学にのぼり、実際に補助を受けながら「地域のための大学」に向かったのが77大学あったことになる。これは、全大学の約1割にあたる数字である。

 当初、文部科学省が描いた通りに改革が進むとすれば、現代の大学にとっては、そのあり方を根底から変える一大事だったはずである。

COC事業の結果は

 では、この5年間で多くの大学が地域志向を鮮明にできたのだろうか。軽々に結論を出すことは避けねばならないが、どうも結果は芳しくないように見える。採択された大学でさえ、それまでのカリキュラムにいくつか地域関連科目を加え、補助金を使っての地域活動を導入しただけで終わったのではないか、という危惧をぬぐえない。社会が、地域の拠点として大学に期待をするのは望ましいことだろうが、問題は、地域が大学に寄せる期待の具体的な中味であろう。地域志向を意識しすぎるあまり、地域からの要求に片っ端から応じるというケースも見受けられるが、COC事業の本来の道筋は、大学が地域社会と課題を共有し自治体と連携することによって地域再生の核になることである。決して、地域からの要請すべてに応じることではない。各種イベントに学生を動員して欲しいという要請は際限なくあるが、それに応じることで地域志向の大学づくりが進むわけではない。

 COC事業を通じて地域に目を向け始めた大学は増えたが、一方で、エスカレートする地域からの要求に応じることで、本来の"地の拠点"としての機能から遠のくことすらあるのではないか。地域社会が都合よく大学を利用し、大学は盲目的にその要求に応じるという繰り返しからは、到底、地域の再生を展望することはできまい。その意味で、大学だけの改革ではなく、地域社会の改革もまた必要なことが、COC事業の5年間で明らかになってきたと言える。

本学COC事業の成果とは

 COC事業を通じて本学は、高等教育機関としての地域連携はどうあるべきかを模索し続けてきた。高校までの教育と大学教育を峻別する要素として、大学が社会人として活動する直前の教育を担っていることを強く意識し我々は、大学での地域関連教育や学生による自主的な地域連携活動が、卒業後の就職と有機的に結びつく方策を探ってきた。学生時代に心血を注いだ地域活動の経験や学びが、直接・間接に活きるようなかたちで学生が地域に定着するケースを少しでも増やそうと試行錯誤してきたのである。つまり、高等教育機関として避けられない、具体的な就職のあり方を重視してきた5年間だったといえる。

 結論を先取りして言えば、地域社会の側でも、課題を十分に認識する努力が必要であり、それら課題の解決に向けた人材を受け入れようとする姿勢を持ってはじめて、大学が"地の拠点"としての機能を発揮できるのである。地域社会もまた、地域課題を意識した地域志向になる必要があり、このことが、大学と自治体が連携して実現しなければならない課題として加わったように思える。

 COC事業の5年間で、本学の地域連携活動は量的にはそれほど拡大はしていない。その成果はむしろ活動の中味、つまり質にあると確信している。一見、従来の地域連携活動と変わらないように見えながらも、高等教育機関に相応しい、したがって地域への定着の仕方を念頭に置いた活動へと、徐々に質を変えてきていると考えている。

 松本大学COC事業の成果は、地域を地域志向に変えるという新たな課題の発見にあった、と言っても過言ではない。

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