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2017/03/02
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本学大学院健康科学研究科の河野准教授と大学院生の論文が「American Journal of Physiology Cell Physiology」に掲載

松本大学大学院 研究科学研究科
准教授 河野 史倫


筋は負荷を与えると肥大することがよく知られています。しかし過剰な負荷は筋損傷を引き起こします。損傷した筋は再生し、新しい筋線維*1で作り替えられますが、このように再生した筋線維が果たして元の筋線維と同じ性質に戻るのかは分かっていませんでした。今回、以下のような実験結果から「再生した筋は肥大しにくい」ことを証明し、アメリカ生理学会の学術誌「American Journal of Physiology Cell Physiology」に発表しました。

筋線維は複数の核を保有する多核細胞です。胎児期に筋が作られる過程から発育・成熟に至るまでの間、異なる種類の細胞が融合し筋線維が作られます。このように様々な細胞が供給する核のうち、胎児期から筋線維に融合した核に注目し、その役割を調べました。遺伝子組み換えマウスを使った実験の結果、成熟した筋にも胎児期に融合した核が残っていることが分かりました。しかし、筋損傷するとこれらの核は失われ、サテライト細胞*2の増殖・融合によって筋線維が再生しました。再生した筋線維は負荷を与えても肥大しませんでしたが、未熟な筋から採取した細胞を移植すると肥大機能は戻ることが分かりました。逆に、筋を全く使わない状態にすると、再生筋でも廃用性筋萎縮*3が引き起こされました。

今回得られた結果は、損傷後に再生した筋は肥大しにくいものの萎縮は起こることを示します。筋線維を作る細胞は、オリジナルに近い方が機能の高い筋線維を作ることができると考えられます。ヒトにおいても、加齢に伴いサテライト細胞は少なくなりますし、過剰なトレーニング負荷による損傷・再生の繰り返しはサテライト細胞を枯渇させます。サテライト細胞の品質を維持することは、将来における筋の質やトレーナビリティの保持に重要であると考えられます。

参考文献:Kawano et al. Am J Physiol Cell Physiol 312: C233-C243, 2017.

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図の説明
骨格筋の損傷と筋線維の再生。成熟した筋線維には生まれる以前から融合している核(胎児筋核)が残っている。筋損傷によって筋線維は壊死し、胎児筋核は失われる。再生した筋線維は、肥大しにくいが萎縮は起こる。未熟な筋の細胞を移植すると、再生した筋線維にも融合し、筋の肥大機能を復元した。

用語解説
*1 筋線維:骨格筋を構成する細胞。筒状の長い細胞で、それぞれが収縮し力を発揮する。
*2サテライト細胞:筋線維の元になる幹細胞。平常時は筋線維に接着しているが、筋損時には増殖・融合し、新しい筋線維を作る。
*3廃用性筋萎縮:運動不足など、筋を使わないことによって筋量が低下する現象のこと。
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