文部科学省に設けられた審査委員会が書類審査・面接審査のうえで対象となる国公私立大学および高等専門学校を採択しました。COC事業の初年度となる平成25年度には、申請件数319件(単独申請299件、共同申請20件)の申請があり、全国で52件が採択され、単独申請で採択された四年制大学は45大学でした。内訳は、国立20、公立11、私立14(申請数164、採択率8.5%)と、私立大学にとっては狭き門となった審査を通過して本学は採択に至りました。
松本大学は平成14年の開学以来、地域社会の発展に貢献する大学を目指して様々な活動を行ってきました。本学の、地域に視点を据えた教育・研究には、地域社会から多くの賞賛する声が寄せられています。また、他大学のモデルとなる取組を進める大学として、文部科学省が選定する事業(いわゆる大学GP)でも数々のGPに採択されるなど、本学の地域貢献活動は高等教育界でも、高く評価されています。
本学が展開する幅広い地域貢献活動には学生が積極的に参加・参画し、それはそのまま、地域に貢献できる若者を育成する過程になっています。本学のあらゆる地域貢献活動は、重要な教育の場でもある、という特徴を持っています。本学ならではの教育手法です。
COC事業の採択に際しては、単に大学に地域の人々が集まるということだけでなく、大学が地域の自治体や地元企業、あるいはNPO法人などの団体と連携して地域課題の解決に積極的に取り組む能力を持っているか、という点が重要視されました。本学はこれまで、数多くの自治体と連携協定を締結することで、行政機関と強い協力関係を構築しながら、地域を活性化する方策を進めてきました。
本学は、学校法人松商学園が長野県・松本市および松本地域広域連合の支援を得て設立されました。そのような経緯から本学が掲げる大学としての目標は、地元の松本平はもちろん信州一円が、活力ある地域社会へと飛躍するために貢献することです。開学以来、一貫してその目標に向かって邁進してきました。ですから、本学が考える「地域」とは、長野県、つまり信州一円を意味しています。本学が県内いたるところの自治体等と連携している所以です。
地(知)の拠点、つまりCOCとして本学は、地域課題を解決するために地域の態勢を整えることを重視しています。地域課題が多様化し複雑化したいま、その解決への道筋を見出すことも容易ではなく、道筋を描けたとしても、その実現にはさらに困難がともないます。現代の地域課題は、行政だけで解決することはできないし、NPO法人等の努力だけで解決するものでもありません。地域に散在する力、活性化に向けた力のベクトルをそろえ、それらを結集して課題解決にあたる他ないでしょう。
本学はなによりも、そのような態勢づくりの拠点であろうとしています。
現代の日本では、解決が求められる課題はどの地域でも概ね共通しています。そしてそれら地域課題はあらゆる分野に及んでいるのが現状です。例えば、若者流出と高齢化問題、環境問題、地域経済の振興、これらは多くの地域が共通に抱える問題です。
本学はこのような多様な地域課題を、次のように、大きく3つのカテゴリーに分けて把握しました。
(1) “ひとづくり”の課題 (2) “まちづくり”の課題 (3) “健康づくり”の課題
以下、それぞれの課題を解決するために、本学が具体的にどのような取組をするのか、その一端を紹介しましょう。
大学である以上、人材の養成こそが最優先されなければなりません。本学が目指す“ひとづくり”は、若者と地域住民の両面で進められます。
若者の“ひとづくり”は、高大連携を通じ、早い時期から地域に目を向けるセンスを養い、高大接続教育へとつなげることに特徴があります。また、地域住民については、これまでの、地域づくりを実践する人材養成に加え、地域ビジネスとその担い手を養成する講座を開設します。経済の活性化を念頭に置いた講座です。
農村部や市街地も含めた地域づくりを、ここでは“まちづくり”と呼んでいます。「高齢者」「福祉」「環境」「安全・安心」がキーワードです。特に、高齢者の居場所と買い物問題については、地域住民の参加も可能な、特定の地域課題に特化した授業を立ち上げます。いわゆるPBL型の授業で、背景・問題把握・解決方策・実践・総括という一連のサイクルに沿って、高齢者の買い物問題をあらゆる角度から学び、同時に“まちづくり”を実践しようという計画です。市街地に買い物とくつろぎの場を設け、実際に稼働させるためには、松本市や周辺自治体との連携が欠かせません。
学生の地域活動を支援する学内機関の“地域づくり考房『ゆめ』”で、これまでに積み重ねられた“まちづくり”のノウハウが十分に活かされるはずです。
健康分野で地域と本学をつなぐ窓口役を果たしているのが地域健康支援ステーションです。ここを拠点に本学は、運動と食・栄養の両面から地域の健康づくりを進めてきました。COC事業の一環として今後、例えば次のような活動を推進する計画です。運動・スポーツに関する取組のひとつに、総合型の地域スポーツクラブを県下各地で普及させる活動があります。長野県住民の各年齢層が身近な地域で幅広くスポーツに親しみスポーツ振興をはかる、ひいては健康の維持・増進をはかるための取組です。また、県下各地で食育活動を精力的に進めることも、本学による“健康づくり”の重要な取組です。いずれの活動も、長野県健康づくり事業団あるいは長野県体育センターと効果的に連携することで可能になる取組です。
わが国では長い間、大学は研究と教育の2本柱で成り立っていると言われてきました。世界レベルの研究を推進し、世界的に通用する人材を養成するのが大学だ、と考えられてきました。しかし、社会が数々の困難な問題を抱え、容易に発展の方向が見出せなくなった現代、大学は足元の地域にどのように貢献できるかが問われ始めています。今日の大学には、研究・教育・社会貢献という3つの顔を持つことが求められています。しかも、それぞれの顔が地域社会からはっきりと見えるようにする工夫も必要になっています。
本学が持つ、研究・教育・社会貢献という3つの顔には、他大学にない大きな特徴があります。本学では、それぞれの顔が別々の方向を向いていません。3つの顔が、地域社会というひとつの方向を向いています。だから、地域からは、どの顔もはっきり見えるのです。“ひとづくり”、“まちづくり”、“健康づくり”の取組は、本学にあっては、教育であり同時に社会貢献でもあります。そのうえ、地域と連携してそれらの活動を展開すること自体が研究の素材にもなっており、研究の成果はまた、それぞれの活動に活かされることになります。3つの顔が同じ方向を向いているので、地域社会からは、本学の顔はひとつに見えているはずです。
本学には、地域連携を進めるための学内部署や委員会がいくつもあります。地域づくり考房『ゆめ』、地域健康支援ステーション、高大連携推進委員会あるいは地域総合研究センターなどがそれにあたります。COC事業の一環として、地域連携に関係する部署や委員会を統合し、地域連携戦略委員会のもとでひとつに統合しました。地域との窓口を一本化し、大学としてのCOC機能を集中・集約した委員会(センター)です。