教育学部学校教育学科
教授 守 一雄
日本の中学生はTIMSS(国際数学・理科教育調査)などでは常に良い成績を取り、世界のトップグループにいます。ところが、同じ調査で「数学が嫌い」と答える割合も多いのです。つまり、「日本の中学生は数学ができるのに嫌いである」という不思議な現象があります。
長野市立犀陵中学校で数学を教えている内田昭利先生と共同でこの不思議な現象について研究をしてきました。その結果、どうやら日本の中学生は数学嫌いを偽装しているらしいことがわかりました。ホントは嫌いじゃないのに、嫌いなフリをしているというわけです。
私たちは長野市内の中学校1年生に数学が好きか嫌いかをアンケートで尋ねると同時に、生徒の潜在意識を調べる心理テストをしてみました。その結果、中学生の2割程度が「偽装数学嫌い」であることを見出しました。中学生になると数学が急に難しくなり、勉強が大変になります。でも、「頭が悪いから数学ができない」とは誰しも考えたくないものです。そこで、「数学ができないのは数学が嫌いだからだ」と思いこむことで、自分のプライドを保とうとするのです。こうした生徒も、世界的な水準で考えれば、決して数学ができないわけではありません。でも、嫌いになってしまえば、どうしても勉強を避けることになり、結果的にいずれは数学のできない生徒になってしまうのです。
私たちは、こうした悪い結末を防ぐことができないか考え、「偽装数学嫌い」の生徒たちに、「君はホントは数学嫌いじゃないのに、数学嫌いのフリをしているね」と伝えてみました。「数学が嫌いだから勉強しなくてもいいのだ」という間違った「自己暗示」を解いてやるためです。嬉しいことに、こうした働きかけは効果があり、ほとんどの生徒が1年後には数学の成績を向上させました。
この研究の成果は国際的にも注目されていて、先月、内田先生(長野県公立中学校教諭)と私の共著論文が
International Journal of Science and Mathematics Education (国際科学数学教育研究誌)に掲載されました。
こちらから原文を読むことができます。