非常勤講師 江成康明
11月10日、ネット社会に精通しているコンピューターソフトウェア著作権協会の久保田裕・専務理事をお招きして「ネット社会を生き抜くために」と題した特別講演を開催しました。人間健康学部3年生の選択科目である「地域環境と民度」の授業の一環として行われたもので、会場となった524教室には受講生以外の学生を含む約140人が出席。現代人に欠かすことのできないネット社会の功罪やネットを使用する側の心構えなど、貴重な話を聞くことができました。
久保田専務理事は、パソコンの普及で世の中がネット時代に入り始めたころから社会の動向変化に疑問を感じ続けてきました。人間にとって目と目を見ながらの直接対話は必要不可欠であるにも関わらず、ネットを使っての情報収集や「姿なき相手とのコミュニケーション」は人間本来の姿から遠のいていく--そんな思いが強くなり、これまでに「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(双葉社)を著作し、ネット社会への警鐘を鳴らしています。最近では、大学だけでなく、企業の管理職や国会議員を対象とした講演をたびたび行うほど要請が高まり、多忙な毎日を送っています。
この日の講演では、専門であるネット上での著作権の話を分かりやすく説明しながら、ネットだけにどっぷり浸かってしまう危険性を論じてくださいました。「誰でもが参加できるネット情報がすべて正しいとは限らないため、情報収集をするメディアをきちっと選ぶ」「パソコンやスマホを見るだけでなく、身体を動かして視点を変えてみる」「発信する場合は、自分の言葉にして対応する」「ルールだけでなく、モラルを持ってネットを使用する」などを注意喚起し、さらに「ネット社会は誰もが加害者になりやすく、被害者にもなりやすい」と結びました。
一方では、9月に起きた御嶽山の噴火事故を例に、「噴火の危険性を感じて本来なら逃げることに専念すべきなのに、登山者の半数以上はスマホで写真を撮っていたという。スマホの写真機能は便利ではあるが、写真を撮る段階では自らが危険の立場にある登山者であることを忘れ、『第三者』になってしまっている」とネット社会がかもし出す落とし穴についても言及しました。
また、学生からは「DVDを借りてきて自分でダビングして何度も見るのは著作権法に触れるか?」との質問が出たり、講演後に「ためになりました」という学生が久保田専務理事に感謝の気持ちを述べるなど、有意義な時間であったことをうかがわれました。
今の世の中は、ネットによるいじめや少年の自販機放火事件の引き金となった「犯罪マニュアル」の露出、さらには「イスラム国」のネット上での戦闘員募集やPRなど、ネットの悪用が際立っています。今後ますます犯罪の舞台となりうるネット社会において、自らを律しながらどうネットと向き合ったらいいのか。それを考えさせられる90分でもありました。